止まるのは当たり前、一つ上を行く快適走行に貢献 ブレーキパッド用フェノール樹脂「ミレックス<sup>®</sup>」

自動車に乗る人と道行く人の安全を守るブレーキ。中でもブレーキパッドは、車軸の回転を直接止める働きを担う、要の部品です。このブレーキパッドの素材として、世界中で三井化学のフェノール樹脂「ミレックス®」が使われています。30年以上にわたり、多くの自動車メーカーに選ばれ続けているのはなぜでしょうか。

ディスクブレーキの性能を決めるブレーキパッドとは

ブレーキは私たちの命を守る重要なシステムです。しかし、車輪の内部に収まっているため、そのしくみをご存じない方もいることでしょう。

車のブレーキには、ドラムブレーキとディスクブレーキがあります。いずれも摩擦で車輪の回転を止めるのですが、ドラムブレーキは、車輪の内側から「ブレーキシュー」というものを押しつける方式、ディスクブレーキは、車輪と一緒に回転するディスクローターをブレーキパッドで挟む方式です。

そのディスクブレーキに、強い制動力はもちろんのこと、「静かに、しかも揺れずに止まる」快適性をもたらすのが、三井化学のブレーキパッド用フェノール樹脂「ミレックス®」です。

といっても、ブレーキパッドは、表面がざらざらした金属の塊のような、ずっしり重い部品です。これに樹脂が使われているとは、にわかには信じられません。

実は、ブレーキパッドは、さまざまな機能をもつ約20種類もの成分を混ぜ合わせて作られています。例えば、ディスクローターとの摩擦を大きくするための研磨剤として金属酸化物がたくさん使われています。だから、ブレーキパッドは重いのです。ほかにも、ブレーキの振動を抑えるダンピング材、摩耗を抑える摩耗調整剤などが配合されています。そして、ミレックス® は、これらの成分を1つにまとめあげる結合材料(バインダー)として働いています。ミレックス® は、重量的には10%程度しか含まれていませんが、個々の成分の機能を発揮させ、ブレーキパッドの性能を高める上で重要な成分なのです。

ブレーキパッドを構成する成分

部材 成分
結合材料 フェノール樹脂
研磨剤 金属酸化物
ダンピング材 カシューダスト、ゴム
磨耗調整剤 バリウム塩
潤滑剤 黒鉛、石墨、硫化物
pH調整剤 消石灰
骨格剤 繊維(樹脂、金属、セラミック)

30年以上、世界で選ばれる「ミレックス®

ブレーキパッドは、必要な成分を型に入れ、150℃程度に加熱して成形します。また、ディスクローターとの摩擦により、ブレーキパッドは300℃近い高温になることもあります。フェノール樹脂は耐熱性に優れているため、ブレーキパッドのバインダーに適しているのです。

しかし、フェノール樹脂には硬いという難点があります。バインダー樹脂が硬いと、ブレーキは「鳴き」を起こし、制動時の振動も大きくなります。「鳴き」とは、車がブレーキをかけて止まる時に発生する、「キー」という不快な音のことです。一方、樹脂が柔らかすぎると、摩擦が弱くなってしまいます。ブレーキの効きがよく、「静かに、しかも揺れずに止まる」ようにするためには、フェノール樹脂を「絶妙な柔らかさ」にする必要があるのです。

三井化学のミレックス® の歴史は、この「絶妙な柔らかさ」を求める技術開発の連続だったと言っても過言ではありません。1959年、三井化学は「ノボラック」というフェノール樹脂の製造を開始しました。このノボラックを柔らかくするため、三井化学は独自に開発したゴム成分を配合し、最初のミレックス® を作り上げました。1982年の発売後も、ゴム成分の種類や分量を変えながら、改良を続け、鳴きと揺れの少ない、安定した制動に貢献してきました。

ミレックス® の製造工程

ブロック

マーブル

粉末

ブレーキパッドの素材として使うまでに段階的に細かくする。

粉末状態のミレックス® をそのほかの成分と混ぜ合わせて溶かした後、成形機でブレーキパッドにする。
三井化学ではこのような試作機を使って、ブレーキパッド様のものを作り、フェノール樹脂の性能評価を行っている。

さらに、三井化学では、より性能の高いバインダー樹脂を目指してノボラックとは構造の異なるフェノール樹脂の採用も検討してきました。その結果、1987年に、フェノールアラルキルを主成分とする新たなバインダー樹脂が開発され、「ミレックス®」に仲間入りしました。この樹脂は、その化学的な構造によって、「絶妙な柔らかさ」とともに、耐熱性の高さを備えています。耐熱性が上がったということは、ブレーキがこれまで以上に熱くなった場合でも、安全に作動できるということです。

2016年現在、「ミレックス®」は20銘柄以上に成長しています。これだけの品揃えになったのは、国ごとの気候や運転習慣に合わせて、最適な特性をもつバインダー樹脂を開発してきたからです。高い性能を追い続けるミレックス® は、世界中の自動車メーカーから信頼され、高級車を中心に広く採用されています。

近年、ブレーキパッドの成分にも、環境への配慮が求められるようになっています。例えば最近、摩擦材として使われている銅の粉の環境に対する影響が懸念されるようになり、配合量がどんどん減らされています。銅には熱を逃がす効果もあるので、銅が少なくなると、バインダー樹脂にはさらなる耐熱性が求められるようになります。

このように、ミレックス® に求められる性能や条件は時代とともに変化しています。しかし、三井化学は、それもさらなる発展のチャンスと考え、30年来の技術伝承と新しい発想で開発を続けています。ミレックス®は、いつも時代のニーズに向き合い、私たちの安全安心を見えないところで支え続けているのです。

コラム 「ミレックス® の性能はこうして決まる」

高性能フェノール樹脂「ミレックス®」とはどのような樹脂なのでしょうか。

フェノール樹脂は、フェノールが炭素原子を介してつながった構造をもつ樹脂です。ノボラック(フェノール樹脂)の場合はフェノールどうしの間に1個の炭素原子が入っています。樹脂の長いヒモ(黒)は絡み合っており、これにゴム(黄色)を加えると、ゴム分子が隙間に入り込みます。その結果、樹脂は柔らかくなります。この柔軟性がブレーキの鳴きを抑え、振動も吸収します。

グラフは、ノボラックに3種類の異なるアクリルゴムを加えた樹脂(A、B、C)の柔らかさを、温度を変えながら調べたものです。3種類ともノボラックのグラフより下側にあり、柔らかさが増していることがわかります。温度を下げていくと、樹脂はどれも徐々に柔らかさを失っていきますが、ブレーキパッドに適した柔らかさをどこまで維持できるか(低温限界)が異なります。この性質の違いを利用して、車が走る地域の気候に対応したバインダー樹脂を細やかに提案しています。