特集【革新】
CO2を原料にメタノールを合成する革新技術を確立
2009年5月23日。三井化学大阪工場の実証試験プラントで、世界初となる工場の排気ガスに含まれるCO2(二酸化炭素)を原料としたメタノールが合成されました。メタノールは各種の化学製品の原料となる物質。それをCO2から合成(固定化)できれば、結果的に化石資源に頼らず、環境を破壊するCO2のリサイクルが可能になります。
革新的な新技術の創出により、新たな価値の創造に挑む三井化学は、「CO2固定化技術」によってCO2問題に新たな回答を示しました。

大阪工場のメタノール合成試験プラント
CO2のリサイクルを可能にした先進の触媒技術
現在、世界では年間約4,000万tのメタノールが生産されていますが、そのほとんどは「CO(一酸化炭素)と水素」からつくられています。CO2はCOに比べて分子の安定度が高く、反応性が低いために、CO2を原料にメタノールを合成するのは困難とされてきました。
しかし三井化学は、RITE*が1990年から1999年まで行った「化学的CO2固定化プロジェクト」に参加し、CO2と水素からメタノールを合成する触媒の開発を続けてきました。藤原謙二・三井化学触媒科学研究所研究主幹は、「触媒とは、そのものは変化しないものの、原料から生成物への反応を促すものです。RITEプロジェクトでは、銅や亜鉛を主体に多種の金属を加えた新触媒を生みだし、CO2と水素からメタノールを効率的に合成することに成功しました」と解説します。
三井化学では、化学製品の原料が石油からほかの資源にシフトすることを見越し、触媒科学の研究を進化させています。CO2と水素からメタノールを合成する新触媒も、改良を続けてきました。「今回の実証試験プラントは、RITEプロジェクトとは違う大きな壁があります」と語るのは生産技術センターの高井敏浩・プロセスユニットリーダーです。
「RITEプロジェクトでは、純粋なCO2を使いましたが、実証試験プラントでは実際に工場から排出されるガスが原料となります。窒素酸化物(NOx)や硫黄酸化物(SOx)など、触媒には大敵のガスが含まれているのです」。
実証試験プラントは、年間約100t のメタノール合成能力があります。試験では、触媒が4,500時間の連続稼働に耐えられるかどうかを検証するとともに、本格的な製造プラントに必要な設計データを収集します。三井化学はグループ全社で年間514万t のCO2を排出していますが、これらをすべて固定化すればCO2排出量がゼロになるだけでなく、年間370万tのメタノールを生み出すことができます。
- *
- RITE:Research Institute of Innovative Technology for the Earthの略で、財団法人地球環境産業技術研究機構のこと。

研究本部
触媒科学研究所
研究主幹
藤原 謙二
生産・技術本部
生産技術センター
プロセスユニット ユニットリーダー
高井 敏浩
化学的CO2固定化の概念

水素調達でも新たな革新技術に挑む
革新技術により新しいものづくりのプロセスを生み出す試みですが、まだ課題があります。最大の課題は水素の調達です。今回の実証試験では、工場の余剰水素を利用していますが、化石資源から水素を調達していては意味がありません。
そこで三井化学では、水素を取り出す研究として、水の光分解触媒や水の電気分解に利用できる太陽電池の開発もあわせて行っています。その際、太陽光などの自然エネルギーを利用します。実証試験の取りまとめ役である高木岳彦・生産統括部主席部員は、「現状、余剰の水素は多くありませんが、自然エネルギーからの水素が得られるまで省エネをさらに推し進め、貴重な水素を地域あるいは業種を超えて無駄なく利用していく努力を進めます」といいます。
メタノールからは、エチレンやプロピレンといったオレフィン類など、プラスチックの原料をつくることができます。これらのプラスチックを使用後に燃焼して、熱エネルギーとCO2を回収し、CO2からメタノールを合成すれば、CO2を原料としたリサイクルシステムが完成します。
実証試験の期間は1年。すぐに本格的な生産に移るわけではありません。しかし、水素調達の条件が整い、原料として本格的に使われるときには、今回の試験をふまえて本格生産に移ることができます。三井化学は明日を見つめて、すぐに対応できるように準備を整えています。

生産・技術本部
生産統括部
主席部員
高木 岳彦



